フランケンシュタイン第七回をお届けします。

これまでのあらすじは
こちらからお読み頂けます。

これまでのあらすじ

フランケンシュタインの隣人

ある朝、フランンケンシュタインが水を汲みに外にいた時、
彼は一人の少女が歩いて来るのを見かけました。

服装から判断すると、その少女は決して
裕福な暮らしをしているようには見えません。

しかし、彼女の髪は、装飾品こそ何もありませんでしたが、
美しい光沢を持っていました。

フランケンシュタインは少女を見失いましたが、
暫くすると彼女は戻って来て、
手にはミルクを満たしたバケツを抱えていました。

重そうにバケツを抱えながら歩く少女の前に、
一人の若い男が現れ、彼は少女からバケツを受け取ると、
二人は一緒に自分達の家へと帰っていきました。

フランケンシュタインは彼らの家の壁にあった僅かな隙間から、
家の中の様子を覗いて見ました。

そこには、少女のほかに、一人の老人と、
少女と一緒にいた若い男、そして若い女性が暮らしていました。

彼らの平和な生活は、フランケンシュタインには
非常に魅力的に映りました。

夕には、若者達は様々な山小屋の仕事に取りかかり、
朝になると老人は楽器をひき、美しい音色を奏でました。

その音楽はフランケンシュタインを魅了しました。

老人の演奏が終わると、若者は何かの本を読みあげているようでしたが、
その内容はフランケンシュタインが理解できるものではありませんでした。

この頃のフランケンシュタインにとって、
文字や学問は全く未知のものだったからです。

この日フランケンシュタインが見たものは、
彼に特別な印象を与えたのでした。

“I LAY on my straw, but I could not sleep. I thought of the occurrences of the day. What chiefly struck me was the gentle manners of these people; and I longed to join them, but dared not.

私は藁の上に身を横たえたが、眠ることはできなかった。
私はこの日の出来事について考えた。
一番私の印象に残ったのは、
彼らの穏やかな振る舞いであった。

私は心から彼らの仲間になりたいと思った。
だが、そうする勇気はなかった。

フランケンシュタインは村人から受けた迫害を
忘れたわけではありませんでした。

そこで、彼は暫くの間密かにあの人々を観察し、
彼らがどんな性質の人間であるかを
見極めようと思ったのでした。

翌日、フランケンシュタインは彼らの行動を見ていましたが、
それは前日とさして変わるものではありませんでした。

どうやら老人は目が見えないようです。

老人は時には楽器を奏で、
時には瞑想に耽っているようでした。

他の住人達はこの老人を大変尊敬していて、
彼らが優しく老人を手助けする様は、
フランケンシュタインに特別の感銘を与えたのでした。

そんな彼らの親切に老人は
限りなく優しい微笑みをもって報いていました。

しかし、彼らが完全に幸福かというと、
そうではないようです。

現に時々、若い男と女性は口論をし、
涙を流すこともありました。

フランケンシュタインは、何が原因でこんな事になるのか
理解できませんでしたが、心が痛みました。

If such lovely creatures were miserable, it was less strange that I, an imperfect and solitary being, should be wretched.

あんなに美しい存在でも不幸であるなら、
私のように孤独で、”できそこない”の者が
悲惨な状況にあったとしても、
それほどおかしい事ではないように思われた。

 

不思議な薪割り人

はじめ、フランケンシュタインは、
何故彼らが不幸なのか理解できませんでした。

彼らは共に暮らす仲間がいて、
寒さをしのぐ洋服や暖炉を持っていました。

そうしたものを持たないフランケンシュタインにとって、
彼らの境遇は十分幸福に見えました。

しかし、観察を続けていると、
徐々に彼らの不幸の原因が明らかになって来ました。

それは「貧困」だったのです。

彼らの質素な食事は、庭で栽培されている野菜のほかは、
一頭の牛からとれるミルクだけで賄われていました。

特に冬場は、牛からミルクがとれなくなるため、
状況はますます辛いものになるのでした。

そんな苦境の中にありながらも、
若者達は自分の食べ物を老人に与え、
自分達は何も残るものがない、といった状況にも
不平を言わず耐えていたのです。

こうした情景はフランケンシュタインの心を
強く揺り動かしました。

実は、フランケンシュタインは
これまで何度か彼らの庭から野菜を盗んだことがあったのです。

しかし、それがこの家族をさらなる貧苦に追いやるものだと
悟った彼は、もう二度と盗みを働こうとは思いませんでした。

また、フランケンシュタインは、
この家では薪割りが
常時の仕事の一つであることを知ります。

夜、皆が寝静まった頃、フランケンシュタインは
若者がいつも使っている斧で、できる限り薪をわり、
それを庭に積み上げておきました。

朝、女性が扉を開け、薪が積んであるのを
初めて見つけた時の彼女の驚きようを、
彼は今でも忘れる事はできません。

こうして彼らは、森に木を集めに行く必要はなく、
一日中庭仕事をすることができたのでした。

言葉

フランケンシュタインは、この家の人々が
お互いの意思を伝える不思議な手段を持っていることに
気が付きます。

それは「言葉」でした。

彼らは、口から発せられるその音声で、
聞き手の心に「喜び」、「悲しみ」、「苦痛」、「楽しみ」
といった感情を引き起こしているようでした。

フランケンシュタインにとって、
それは「奇跡」のように見えたのでした。

 

This was indeed a godlike science, and I ardently desired to become acquainted with it.

それは本当に「神業」であった。
私はなんとしてもそれを学びたいと思った。

人間の言葉を学ぶことは容易ではありませんでしたが、
それでも何ヶ月にも及ぶ努力によって、
彼は徐々に物には「名前」があることを
知ったのでした。

家の若い男は「フェリックス」と呼ばれていたし、
老人は「お父さん」と呼ばれていました。

そして、少女の名前は「アガサ」でした。

また、彼は、彼の身近にあるもの、すなわち、
「木」「ミルク」「月」など、
こうしたものの名前を覚えていきました。

しかし、まだ彼は

「善」、「大切」、「幸せ」

といった言葉が意味するものが何なのか、
それを理解することは出来ませんでした。