身体体験から概念へ

私達の思考と言語は、切っても切り離せないものです。

言語は、私達がどのように世界を見ているかを映す
鏡のようなもの、と言えるでしょう。

私達は抽象的な思考の前に、
身体的に世界を体験します。

それは個人としても人類という種族としても、
真実です。

例えば、「通り抜ける」とは言い換えると
「ある程度の長さをもった場所をはじめから終わりまで移動する。」
という意味ですね。

こういった身体的体験は、誰もが簡単にイメージできます。

私達は大人になるにつれてもっと抽象的な思考を
するようになります。

といっても、誰もが哲学者になるわけではありませんが。

そういう意味ではなく、日常的に
抽象的な概念を使うようになっていく、ということです。

そして、抽象的なことを表現するために、
身体的体験を表現するために使う表現を
たとえとして用いるのです。

これを言語学では、
conceptual metaphorといいます。

これは別に難しいことではなく、
日本語でも自然にやっていることです。

例えば、「本を読み通す」といえば、
「本をはじめから終わりまで読む」という意味になります。

ここで「通す」という言葉が使われていますが、
「本を読む」という行為には移動という要素は
含まれていません。

にもかかわらず、「本を読む」という事が、
入り口と出口のあるプロセスとして捉えられるために、
「通る」という言葉が使われているのです。

これも、conceptual metaphorの一例です。

今日は、conceptual metaphorの視点から
「通り抜ける」という根源的意味を持つ
throughという前置詞について学んでいきましょう。

throughの根源的意味は「通り抜ける」

一つ一つの単語には根源的意味があり、
根源的意味から、派生的な意味を捉えることが大切です。

throughの根源的意味は「通り抜ける」、
「(ある場所の)はじめから終わりまで」
です。

We drove through the tunnel.
私達は車でトンネルを抜けた。

They slowly walked through the woods.
彼らはゆっくり森を通り抜けた。

これらは、ある空間を通り抜けるという、
基本的な意味でthroughが使われている例です。

時間的に使われる場合

普段、特に意識されない事ですが、
私達は時間を空間的なものとして捉えることができます。

つまり、私達は時の流れを直線としてイメージします。

実際にカレンダーのアプリケーションでは
一日の予定を縦に長い表に入れていきますよね。

ある期間継続する事柄は「直線」としてイメージされた時間軸の
「区間」としてイメージされます。

そして、その区間を「通して」何かが起これば、
それh「その期間ずっと起こっていた」つまり、
「(時間的に)はじめから終わりまでずっと」という意味になりますね。

このように、throughには
「(一定の時間)ずっと」という意味があります。

例を挙げれば、

It rained all through June.
6月はずっと雨だった。

We sat through two of the speeches and then left.
私達は2つ講演を聴いて、そのあと立ち去った。

原因

throughには、原因を表し「~のために」
という意味もあります。

A lot of water is wasted through leakage.
水漏れによって大量の水が失われた。

Four million hours were lost last year through stress-related illnesses.
ストレスに関係した病気のために、去年は4百万時間が失われた。

道具、手段

また、道具や手段を表して、
「~を使って」という意味もあります。

We sold the bike through advertising in the local paper.
私達はその自転車を、地元の新聞に広告を打って売った。

達成、完成

最後に、throughには仕事や試験を達成する、完成する、
という意味があります。

She’s through to the next round of interviews.
彼女は次の面接へと進んだ。

I’ve got some work to do but I should be through in an hour if you can wait.
まだ仕事があるけど、待っててくれるなら1時間以内に終わると思うよ。

まとめ

以上、throughという1つの単語の使い方を
かなり網羅的にみてきました。

これら複数の用法は無関係ではなく、
throughのもつ「通り抜ける」という根源的意味の
イメージでつながっています。

空間であれ、時間であれ、概念的なものであれ、
“through”という語には「通り抜ける」というイメージがあります。

「手段」という一見「通り抜ける」という
意味とか関係のない用法にも、「手段」が
「目的を達成するための通過点」のようなものとして
意識された時、「”手段”を通る」ことがすなわち、
「”手段”を用いる」ことになる、と理解できそうです。

実際この解釈が言語学的に正しいかは
議論の余地があると思います。

ただ、基本的な単語ほど、なるべく統一したイメージを
持つことが大切です。

throughの持つ、「手段」や「原因」の意味も、
その根源的意味である「通り抜ける」とつながったものとして
記憶しておくべきではないでしょうか。

派生した意味をバラバラのものとしてではなく、
根源的意味を中心にして記憶する。

こういった意識で単語に接していくと、
記憶にかかる負荷が減るだけでなく、
英単語一つ一つのイメージが充実します。

その結果、ネイティブの英語感覚に
近づくことができるのです。